ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.44 "進化し続けるウスタニミホさん" "谷川亜希さんのシャープな作品" "職人技を守るにじゆらさん"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.44 "進化し続けるウスタニミホさん" "谷川亜希さんのシャープな作品" "職人技を守るにじゆらさん"

<2012年7月号>

進化し続けるウスタニミホさん


葉山“ウスタニミホの店”

数か月前、久しぶりにウスタニミホさんと電話で話しました。あいかわらずフランクで親しみのある感じ。
電話の中で、「私もやってしまったけど、オモダさんもやってしまったわねぇ。」と言われました。
何の事だかわからなかったのですが、ウスタニさんが昨年7月に葉山に店をだされたことと、私が今年1月に大網に店を移転したことでした。
「こんなご時世によくやるわよねぇ。しかも、考えないで思いつきで始めたでしょ。無謀よねぇ。」と。(苦笑)
チャレンジャーである。
ウスタニさんも私も、以前より忙しさが増しアタフタしているわけですが、「しんどいけれど働かなきゃねぇ。」と、お互いを激励し合いました。
彼女のお店の1周年を今月迎えられます。めでたい! ウチはまだ半年ですね。がんばります!

ウスタニさんは、テキスタイルプランナー・新井淳一氏に師事された後、
イッセイミヤケやコムデギャルソンのパリコレの服地づくり、ヨーガンレールの藍染などに携われました。
2年前、ウチでウスタニさんの展示をしたときに、私が購入したストール。
パイナップルの葉脈を織って布にしたもので、そのものも素敵だったのですが、
ギャルソンの川久保怜さんが以前求められたと聞き、ミーハー心も手伝ってゲットしたものです。

藍や墨や柿渋で染めたものと聞くと、純和風なイメージが先にきますが、ウスタニさんの作品は、とてもモダン。
日本の古くから伝わるそれらの染料を使いながら、絵柄や布遣い、できあがったものの造形にウスタニさんの感度の高さがみられます。
それらは、和室であろうがコンクリートでできたシックな空間であろうが、ピリっとスパイスを効かせるインテリアの一部となる。
今回は、ストール、バッグ、Tシャツ、スカート、スクリーン、クッション、・・・など、たくさんバリエーションが勢ぞろいします。
身につけて自分自身を装うもよし、部屋において空間を装うもよし。
前回の展覧会時でも注目された、希少なムガシルクやカディやピーニャなどの織物も登場します。お楽しみに。

谷川亜希さんのシャープな作品


千葉県市原市に、ご主人でガラス作家の須藤泰孝さんと“rasiku”という工房をやっておられる谷川亜希さん。
亜希さんの作品は、かなり珍しい技法によってつくられます。
板ガラスを何枚も積層にして、低い温度の窯に入れてカタマリにする。
溶かしたガラスを竿の先につけ、その積層の個体の底に圧着。
竿の先を炉に入れ、溶けてくるものが重力に負けないよう、竿を調節しながらクルクル回す。
炉から出したそのカタマリの先に、千枚通しで穴をあけ、そこから息を吹き込むと内側に空洞ができる。
硬い板ガラスを積層にしてより硬くなったカタマリに、うまく空洞を作ることは至難の業。
何度も炉に入れ、少し柔らかくし、息を吹き込み、また窯に入れ・・・を何度も何度も繰り返します。
私は遠くから見学していただけなのに、暑さで意識が朦朧としてくるほど。ましてや亜希さんは炉の近くで作業。重労働だ。


富山ガラス造形研究所で4年、アメリカのPilchuch Glass Schoolでのセッション参加、チェコの国立芸大に留学、ガラスを学ぶ。
その後、板ガラスでオブジェを作り発表するも、遠巻きに作品を観られるだけで、触ろうとする人がいなかった。
須藤さんの作品展では、お客様は次々と手にとって作品を楽しまれる。
亜希さんは、自分の作品と感じる側の人との距離感を縮めたいと、オブジェに加えてグラスや皿などの制作もされています。
それらの作品は、たしかに“用の器”でもありますが、美術品のような大きな存在感があるのです。
亜希さんいわく、「器としての機能性も大切ですが、まずそのもの自身が美しくなければ。そこを大切に創作しています。」と。
彼女のつくる香水瓶や花器は、惚れ惚れするほど見目麗しい。
エレガントでシャープで幻想的。知的な気品さえ漂っている。

現在、工房の横にご自宅建築中。家と工房の間に、ギャラリースペースもできます。
ますます気持ちの良い環境が整い、今後の創作にもより力が入ることでしょう。

職人技を守るにじゆらさん

 
“糊置き”        “注染”


“伊達”
天井高5メートル以上から吊られている。圧巻。

昭和40年頃から続く染色工場“ナカニ”の社長・中尾雄二さんが熱く語られました。
“注染(ちゅうせん)”という染めの技法は、大阪・堺が始まりだとか。
約20メートルの反物状の晒生地を型の幅に合わせてジャバラ状に何重にも折り畳み、
上から染料を注ぎ、手ぬぐい約25枚分を一度に染め上げます。
効率のよい方法ではありますが、染めるまでの工程がたくさんあります。
型を晒生地の上に置き、染料をはじかせるための糊を塗りながら、位置がずれないように布を折り重ねていく“糊置き”。
それをネット状の染め台に移動させ、染める部分の周りに糊で土手を作り、
ドヒンというジョウロのような道具を使って染料を上から注ぎ入れる“注染”。
染まった生地を洗いにかけて干す“伊達”。
これらの工程は、業界の通例としてはそれぞれの作業専任の職人によって分業制でなされます。
中尾さんは、この優れた伝統技法である注染の職人の技を守るため、5年前、手ぬぐいブランド“にじゆら”を立ち上げられました。
そして職人がやりがいを感じられるよう、分業だった各工程を一人の職人が一貫して担えるよう育てているのです。

また、手ぬぐいのデザインを多くの作家とコラボして生み出していることにより、多種多様な図柄を楽しめます。
従来の手ぬぐいメーカーには予想もつかないような斬新なデザインもあります。
絵画やオブジェなどはとっつきにくいという方にも、カジュアルにそのエッセンスが感じられる手ぬぐい。
それを暮らしの道具として使えるという楽しさは、手ぬぐいならではです。

注染による染めは、生地の表面を染めるのではなく、布を構成する糸の芯まで染料が入っていくので、裏も表も同じ染め上がりが特長。
使って洗って乾燥して・・・を繰り返すと、色が剥げるというよりは味わいが出てきて魅力が増すのです。
今回、150種類の手ぬぐいを展開します。 日常のいろんな場面で、どんどん使って楽しんでください。

コラム vol.44 "進化し続けるウスタニミホさん" "谷川亜希 さんのシャープな作品" "職人技を守るにじゆらさん"