ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.83 "荒井恵子さんの経験値" "苫米地正樹さんとターコイズブルー"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.83 "荒井恵子さんの経験値" "苫米地正樹さんとターコイズブルー"

<2015年10月号>

荒井恵子さんの経験値

友人・荒井恵子さんとは長い付き合いですが、年々パワーを増して円熟してきているのに驚きます。
水墨画というと花鳥風月や山水などを想像されがちですが、荒井さんの作品は引き込まれるような線や面で構成される抽象画。
その強烈な魅力は、日本だけにとどまらず、海外でも確実に評価が高まり、活躍の場を広げています。
それは、壁面に展示するのはもちろん、舞台美術、教会という空間にインスタレーション、禅寺に襖絵、・・・と多岐にわたります。
好奇心旺盛な荒井さん、常に心踊らされるあらゆることを敏感に察知し果敢にそこに飛び込んでいく。
そうして、いろんなジャンルのいろんな人との出会いがあり、ますます関心が広がり深まっていくのが手に取るようにわかります。
あらゆる多くのことを感じ取り、吸収し、身体の中で温め、昇華させる。
その経験を積極的に積みあげることによって、荒井さんのアーティストとして、一人間として、厚みを帯びていくのです。
荒井さんと私は、何かおもしろいことを見つけるとすぐに連絡を取り合い、時間をねん出して出かけます。
その場に行かなければわからないことがたくさんある。
だからその場に出向いて行って、何かをカラダで感じる。
経験値を高めることがダイレクトに自分を成長させてくれると信じます。

水墨画には、和紙と墨はなくてはならないもの。
和紙・・・。 かの横山大観、平山郁夫、東山魁夷などが紙を漉かせたという福井の岩野平三郎の三代目と交流があり、その紙を使う。
墨・・・。 奈良の墨屋さんからこの度“百古墨”なるものを寄贈され、100種もの希少な墨が荒井さんの元に来た。
これらの錚々たる材料が自ずと集まってくるのは並大抵ではない。なぜだろう。
荒井さんの人となりと作品の独創性が起因しているのだと思う。
また、荒井さん自身も、これらの材料を愛情をもって大切に無駄なく使って、カタチにする。 すばらしい。

今展では、3年前に禅寺に納めた襖絵の延長で、『空』と『宙』を表現します。
また100種の墨をひとつひとつ摺って、ひとつひとつ筆に含ませ描かれた点。
その二本立てで展開しますが、それぞれの作品に宿る精神世界を垣間見ていただきたいと思います。
饒舌な墨色、迫力のある筆致、白と黒の中に彩りが現れ、すーっと体に染み入ってくる。
図録やネットの写真ではなく、実物を肉眼で観てください。
その絵の前で、どのような感情が起こるかをぜひ体感してくださいね。






苫米地正樹さんとターコイズブルー

三重県四日市で生まれ育ち、現在もここで作陶の毎日を送る苫米地正樹さん。

お父さまが画廊でお仕事をされていて、幼い頃からいつも無意識にアートに触れていました。
なぜか子どもの頃からターコイズブルーが好きで、買ってもらった赤い自転車をブルーのペンキで塗り替えたほど。
小学生になってサッカーにのめり込み、そのままサッカーがやりたくて入った高校がセラミック科。その時“セラミック”が何なのかも知らなかったそう。
在学の間に発表した作品が何度か入選したことで、担任の先生からその道に進んでみないかと勧められました。
高校卒業後、地元の陶器商社に就職し、商品開発の部署でいろいろな器づくりを研究。
やきものの産地ではあるが、いわゆる“○○焼”というものではなく、個性的である程度の量産ができるものを考える。
会社員としての仕事と並行して、個人の活動をサポートしてくれる制度もあり、ウデと感性を磨いていきました。
6年後独立し、最初は創作和食店や居酒屋向けの業務用食器を大量に作ることで、職人として生計をたてていました。
そのうち、インディアンジュエリーの“インレイ”のようなターコイズの石をやきもので作ってみようと思い立ちました。
それが今の作風でもある“貫入”へとつながっていきました。

苫米地さんの器の表面には無数の細かい線があります。
素地と釉薬の焼成時収縮率の違いから、ヒビ(貫入)が入るのですが、その線を強調するために焼成後に墨に浸す。
くっきりシャープで美しく黒い線が浮かび上がります。
そこに黄色やショッキングピンクやターコイズブルーなどの色釉がかかり、ピリっとモダンなアクセントを加えます。
フォルムはいたってシンプル。どんな料理をも受け入れる寛容さがあります。
また、苫米地さんの器はほとんど型による“鋳込み”によるもので、同じアイテム品番の器はきれいに重ねられるものが多い。
しかも非常に丈夫で、普段使いに大活躍します。

今回、苫米地さんの器を使って、食事会を催します。
料理研究家・林幸子さんにより、今企画展の『sumi』をテーマにお料理を組み立てていただきます。
会期中は、三重から駆けつけ、千葉に長期滞在し、たくさん在廊しより多くの方と交流する機会をもってくださいます。
フランクな苫米地さんに会いにいらしてくださいね。



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