ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.55 "安藤雅信さんの器" "にじゆらの手ぬぐい" "gallery takamine 小野高峰さんの眼"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.55 "安藤雅信さんの器" "にじゆらの手ぬぐい" "gallery takamine 小野高峰さんの眼"

<2013年6月号>

百草

安藤雅信さんの器

陶作家であり、多治見の“ギャルリ百草”のオーナーである安藤雅信さんは、ここ十数年の間、 現代工芸界において最も注目されている人物のうちのお一人で、不動の人気を誇ります。
多くのメディアにも取り上げられ、順風満帆に突っ走ってこられたのかと思いきや、紆余曲折を経て今が。
武蔵野美術大学で彫刻を専攻、20代は現代彫刻家として活動されるが行き詰まる。
30代でご結婚後、方向転換しやきものを作り始めました。
当時、食卓は座卓からテーブルへと移行して、和食器から多様な器の需要が高まってきており、 そんな中、「こんな器があったらよいのに。」という意識で制作・発表し、現在に至る。
こうして安藤さんが火付け役となりブームとも言える白い器は、その後、若手作家にも大きな影響を与えた。

なぜ安藤さんがこれほどまでに人気があるのか・・・。
私なりに分析すると、安藤さんに“ヒト・モノ・コト”の三つの柱が存在するからだと思います。
“ヒト”・・・こよなく茶の湯を愛する安藤さんに、茶事にまつわる深い精神性や
      場をしつらう感性に秀でている。
“モノ”・・・従来、誰も作らなかったありそうでなかったシンプルで美しい用の
      器を制作する。
“コト”・・・自然に恵まれた土地に古民家を移築し、その住空間において
      美術・工芸作品の提案をする。

現在、安藤さんの定番の器は、1200種類以上に及びます。
それは“使う”途上で買い足したい、割れたのと同じものがほしい、こんなものがほしい、・・・などの要望に応えるため。
展覧会などでゲットできなかった器は、1年待ち、2年待ちが当たり前なほど、請われているのです。

ある日、お嬢さんがテレビの料理番組を見ていて、安藤さんの器が使われていると指摘。
何でわかったのか尋ねると、「器の佇まいでわかった。」との答え。
シンプルながら何かがよい。そうだ。その“佇まい”こそが、安藤さんの器なのです。
器そのものがよいというだけではなく、器周りの空気までをも作り上げてしまう不思議な作品のチカラ。

この春、高校生、大学生になったお二人のお子さんが、都内で一人暮らしを始めるにあたり多治見を出られました。
安藤さん、何度涙したことかわからないとのこと。そんな温かい父としての一面も垣間見られたのです。
今後の安藤さんの公私ともの展開に目が離せません!


“にじゆら”の手ぬぐい

大阪・堺にある染色工場で、伝統的な“注染”という技法で丁寧に染められている“にじゆら”の手ぬぐい。
“注染”とは、その名のとおり染料を注ぎ、染める技法。
20数メートルある一枚の布をジャバラ上に重ね合わせることで一度に25枚の手ぬぐいを染めることができます。
表からと裏からの二度染めることで、ウラオモテなくきれいに染まるのが一つの特徴。
また、注染には多くの工程があり一つ一つの作業を職人が手作業で行うので一つとして同じものは存在しません。
職人の手作業だからこそ表現できる繊細でやさしいぼかしや、にじみの何とも言えない風合いが魅力です。

そして、多くのアーティストとコラボレーションすることにより、柄のバリエーションが豊かでテイストもいろいろ。
アートを手軽に身近で使う道具としての楽しみがあります。
ぬぐったり、包んだり、額装してインテリアに、贈り物に、ランチョンマットに、・・・、多様な用途に使えるのです。
手ぬぐいは使い込んでいくほど、柔らかくなじんでアジがさらによくなります。
湿ったり使ったりした後はさっと洗ってギュっと絞って、切りっぱなしなので清潔にすぐに乾かすことができます。
使えば使うほど虜になる手ぬぐい、暮らしの中でいろいろにおためしください。


“gallery takamine ” 小野高峰さんの眼


gallery takamine店内

友人・小野高峰さんは働き者だ。
夜明け前に車に乗り込み、市や競りに買い付けに出かけ、早朝、倉庫や家に戻り、荷物の積み下ろしをする。
8時半頃、一人娘のMちゃんを保育園に送り届ける。
ご近所さんで、毎朝、小野父娘が手をつないでゆっくりおしゃべりしたり歌ったりしながらウチの前を歩いて行く。
この朝の数十分が毎日慌ただしく過ごす小野さんの癒しの時間だそうです。
その後、千葉の店、買取、市、イベント、・・・、とにかく連日休みなく朝から晩まで動き回っているのです。

小野さんは、おもに“made in Japan”にこだわり、紀元前から現代まで、おもしろいセレクトの古道具を扱う。
私の店も、移転の際、什器の多くを小野さんから調達しました。
店の床板のオイル掛けやドアのペンキ塗り、作品のレイアウトなども連夜手伝ってもらいました。
大きな体に童顔のやさしい笑顔で、人あたりはとてもソフトですが、
たしかで魅力的なモノ選びの眼は厳しく繊細で、見ればほしくなってしまう誘惑の品ぞろえ。

いま、小野さんは同業種の仲間と一緒に、新しい骨董の風を吹き込もうと活動しています。
どんな展開になるのか、楽しみに見守ろうと思います。

コラム vol.55 "安藤雅信さんの器" "にじゆらの手ぬぐい" "gallery takamine 小野高峰さんの眼"