ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.84 "小泊良さんの底力" "土屋等一さんと美津子さんのご自宅の壁"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.84 "小泊良さんの底力" "土屋等一さんと美津子さんのご自宅の壁"

<2015年11月号>

小泊良さんの底力

静岡出身で沖縄在住の小泊良さん。
一見、もの静かでシャイで穏やかですが、芯が強く何事にも動じない人というのが私の小泊さんの印象です。
いつも淡々と飄々としています。

gallery ten のカフェでは、いろいろな作家さん方の器を使って提供していますが、小泊さんのカップや皿や飯碗には根強い人気があります。
小泊さんの作品の魅力を考えてみました。
土の素朴な素地に、大胆な幾何学模様。
その模様は鉄釉で描かれた太い輪郭線に、塗りつぶされたマットなオフホワイト、沖縄の海を思わせるブルーが効いています。
小泊さんのアトリエは沖縄北部の“今帰仁(なきじん)”にあります。
小高い丘の上から臨む海や空や植物などの大自然、それらを彷彿とさせる色遣いなのです。
迷いがなく、勢いがあり、力強い。
技巧や意匠に作為が見られず自然である。
でも、よく見ると、いろいろ手が込んである。
何一つ同じ絵柄がない。
器そのものはほどよい厚みがあり、どっしりと頑丈である。
手取りもよく、造形のバランスや使い勝手の良さ、アートそのものを躊躇なく使える楽しさがあります。
大胆な絵柄があるにもかかわらず、どういうわけか飽きがこない。
どんどん愛着がわいてきます。

いつまでも使っていて気持ちが良くなる器をどうすれば作ることができるのか。
それが小泊さんの表現者としての底力だと思います。
「どうだ!これが私だ!」と出しゃばっておらず、内面からじわじわとその魅力を漂わせる奥深さがある。
小泊さんの作品も、彼自身も。
会期初日は小泊さんが沖縄から駆けつけて在廊してくださいます。
小泊さんの人となりにもぜひ触れてください。












土屋等一さんと美津子さんのご自宅の壁

埼玉県東松山で“ギャラリー黒豆”を営み、作家でもある土屋美津子さん。
世界中のアンティークを知りつくし、多くの人と知り合い、豊富な知識と経験と見識を持ち、それらを販売してきたと同時に、照明器具を作っています。

ちょうど3年前に不慮のできごとによって、大切に大切に育ててきた店の空間やアンティークなどを一気に失ってしまわれました。
計り知れないほどの落胆で、その後そのストレスもあってか大病をし、しばらくは店も作家活動も休んでおられました。
食欲も物欲も行きたい所も失せてしまいました。
家にひきこもり鬱々としているうちに、「人間って何だろう?」「生きているって何だろう?」と考えるようになりました。
建てなおしたご自宅のリビングはそれほど広くはなく、家具やオブジェを置くことができなくなってしまいました。
ただ、お孫さんが描かれた絵を一枚壁にかけると、胸が温かくなる想いがした。
心踊らされるアートに出逢うことは、気分が高揚し喜びを感じる。
それからひとつひとつ壁面にはアートが増えていき、いつもいつもそれらから癒されているそうです。
心が癒されるということは、体も癒されるということ。心も体も徐々に健全さをとりもどしてくるのです。
見て、食べて、おしゃべりして、・・・自分の好きな物に包まれることで、“今”を楽しむことの大切さに改めて気づかされました。
そればかりか、あれほど大変な想いをさせられた災いまでを、
今生かされていることに感謝するために、自分に課せられた出来事だと思えるとおっしゃるのです。

そんな体験をして、また新たにものづくりに取り組まれているわけですが、
美津子さんの審美眼で吟味し愛情をもって選ばれたアンティークのパーツで、他の何かと組み合わせて世界中のどこにもないライトが生まれる。
美津子さんのアイデアやデザインを、ご主人の等一さんがカタチにする。
構造はシンプルですが、簡単で美しく仕上げるためには隠れた技術が必要。夫婦の協力で初めてひとつの作品となります。
お二人の情愛あふれるお人柄に触れると、さらにその作品から発せられるオーラをも感じられます。
その存在と優しい灯りを見て、楽しい!力になる!がんばれる!ホッとする!気持ちがリセットされる!
・・・・・黒豆ライトを作る人も買う人も一緒に力を合わせて生きていく、そんな想いで作られているのだそうです。
ふわりとした空気を醸し出す作品だと思います。ぜひご高覧ください。










コラム vol.84 "小泊良さんの底力" "土屋等一さんと美津子さんのご自宅の壁"