ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.12 "シャイな渡辺均矢さん""山田聡さんのシーサー""石川緑さんの手の仕事"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.12 "シャイな渡辺均矢さん""山田聡さんのシーサー""石川緑さんの手の仕事"

シャイな渡辺均矢さん 山田聡さんのシーサー 石川緑さんの手の仕事(ギャラリーテン〜コラム vol.12) <2007年8月号>

シャイな渡辺均矢さん


多治見で30年以上作陶を続けておられる渡辺均矢さん。
美的で使い勝手のよい器を中心に創作されています。
シンプルでモダンに成形した磁土の表面に針で線刻し、描いた溝に呉須という青い顔料を筆で埋め込む。
いわゆる“象嵌(ぞうがん)”という技法です。
渡辺さんの描く線は、抽象的でポップなのがおもしろい。

アトリエには手作りのいろいろな形の道具がありました。
「これは何ですか?」「これはどう使うのですか?」と尋ねると、親切に詳しく説明してくださる。
なるほどと納得できる機能的で使いこまれた道具の数々。
ろくろの前には、たくさんのスケッチや注文書、備忘録、ご家族の写真などが貼り付けられている。

渡辺さんは、失礼ながら、一見、普通のおじさんです。
ところが、口数こそ少ないながら、お話ししているうちに、温かい人柄がひしひしと感じられる。
とてもシャイで、こちらが申し訳なくなるほど、謙虚でいらっしゃる。一生懸命さ、真摯さが伝わってくる。
そして作品が洗練された楽しいものに仕上がっている。
なんだか渡辺さんがかっこよく見えてきました。








ウチの門扉の奥に鎮座するシーサー

山田聡さんのシーサー

落花生の名産地・千葉県八街市にアトリエがある山田聡さん。
沖縄ご出身で、東京芸大の工芸科を出られた後、千葉に。
山田さんのお庭に長年あったシーサーがウチのワンコにそっくりで、頼み込んで我が家に連れて帰ってきました。

シーサーは、沖縄でよく見られる、中国から伝わってきた魔よけの獅子。
当初は、城門・寺社・王陵・集落の入り口などに置かれたそうです。
19世紀末、民家にも赤瓦の使用が許されると、屋根に獅子を据えて魔よけとする風習が一般に広まっていきました。

山田さんはいろいろな作品を作られるのですが、今回は彼の独創的なシーサーに惚れこみ出展していただくことに。
ユーモラスな表情だったり、ちょっとおすまししていたり、飄々とした面持ちだったり、・・・大小たくさんのシーサー作品たちが登場。
そこにいてくれるだけで、家を守られているような安心感がうまれます。
シーサーには、猛犬やホームセキュリティシステム等とは違って、精神的に保護されている幸せ感があります。
しかも、魔よけというだけではなく、訪れる人たちを歓迎してくれる気さえするのです。
心なしかその家の主とその家のシーサーが似てくるのではないかと思えて、少し笑ってしまいます。
両者とも体をはってその家族を守り、大好きな人たちを喜んで迎え入れるのはたしかですよね。




石川緑さんの手の仕事



昨年秋のこと。毎月楽しみに伺っている“5days cafe”(昨年12月号参照)で、石川さんと偶然同席しました。
彼女が持っていらした白くて清楚でキリっとした美術品のような布に一瞬のうちに眼を奪われました。
初対面にもかかわらず、あまりの感動に思わずその場で「私のギャラリーで展覧会をさせてください!」と口走ってしまいました。

それが“ポジャギ”。韓国のパッチワークで、日本の風呂敷のように「包む」文化から成り立ったものです。
韓国では、麻やシルクや綿などでつくられる、カラフルな直線的な幾何学模様がポピュラー。
一方、石川さんのポジャギは、綿のサラシという素材にこだわり、自在に折りたたんで細かく巻きかがりをして作られます。
その手仕事たるや、丁寧で地道で緻密な針目の繰り返しによるもので、それはそれは気の遠くなるような作業。

石川さんのお宅に初めてお邪魔したとき、ガツーンと頭を殴られたような衝撃を受けました。
彼女の日々の暮らしがいかに大切に営まれているか・・・。
私自身の日頃のいい加減な暮らしぶりが恥ずかしくなるような想いに反省させられるも、とても真似のできることでもありません。

石川さんは民芸に精通しておられ、部屋の至るところに民芸のやきものや籠などが配されています。
部屋から見える雑木の緑深い庭にも癒されます。
また、使い古した布巾や服地を再利用して、そこに刺し子や裂き編みなどを施し新しい命を吹き込んだ生活の道具もそこここに。
それらの中でも見入ってしまうほど美しいのが、裁縫道具を仕舞う袋。
使い込まれた白いサラシを重ね、赤い糸で刺されたステッチがかわいらしい。
一つ一つの裁縫道具の居場所にそれぞれのサイズや機能に合った工夫いっぱいの袋。
見ているだけで楽しくて飽きない。何度も手に触れて優しい気持ちになる。

石川さんの暮らしで一番大切にされていることが食事なのだそうです。
朝昼晩のごはんを全力で精魂こめて作られるとのこと。
厳選された季節の食材を手間と愛情をこめて調理し、出来上がった料理を引き立たせる陶磁器や漆器に品よく盛り、漆の折敷に配膳。
そして毎度の食事を眼と舌と手と鼻と耳で感じ、おいしくいただく。

彼女から伝わってくる、思いやりや気遣い、たおやかさ、気高さ、芯の強さ、豊かな知性、鋭い感性、・・・暮らしの全てにおける手の仕事・・・。
どう考えても私はこんな女性にはなることができそうにない。
ただただ石川さんは私の理想の女性像であり、心地よい緊張感を伴うオーラを発する女性なのです。
こんな大和撫子との出会いは私の大きな誇りです。




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