ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.37 "艸田正樹さんの精神性""美白な若杉聖子さんと美白な若杉作品"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.37 "艸田正樹さんの精神性""美白な若杉聖子さんと美白な若杉作品"

艸田正樹さんの精神性 美白な若杉聖子さんと美白な若杉作品(ギャラリーテン〜コラム vol.37) <2011年8月号>

艸田正樹さんの精神性


洗練と落ち着きのご新居

金沢に艸田正樹さんを訪ねました。
昨年お会いした時には、ご新居を建築中だったので、今回はぜひにと厚かましくお邪魔させていただきました。 兼六園や21世紀美術館からほど近くの閑静なエリアの小高い丘に、洗練された木のお家が建っていました。 お若い建築家が設計されたというこのきもちのよい空間は、艸田さんの雰囲気にピタっとくるものでした。
前回お会いした時は、大学生時代から乗っているというプジョーのマウンテンバイクで颯爽と登場。 今回は、ボルボの赤いクラシックモデルのワゴン車で登場。お家といい、乗り物といい、強い嗜好とこだわりを感じます。

私が艸田さんの作品に初めて出会ったのは、まだ東京にお住まいの頃でした。現在に至る経緯を今回じっくり伺いました。
大学で土木工学を専攻、博士課程修了後、シンクタンクの会社に入社。 都市開発の仕事で、身を粉にして働く毎日。 入社2年目に、どういうわけか、陶芸教室・カメラ(会社の写真部)・吹きガラス体験の三つのことを試みることに。
そもそも、艸田さんは大学在学中に劇団をたちあげ、自ら、脚本・演出・美術・役者をこなし、集団表現に楽しさをみいだされていました。 ムクムクとなにかを“創る”ことへの気持ちがよみがえり、あくまで会社員の趣味として、ひそかに制作を始めました。 会社のハードな仕事で時間に追われていくうちに、自分自身をリセットすることを決意し、5年間の会社員生活をやめました。
ある伝手から、富山の八尾という町の茅葺屋根の古民家で、“生きる”根本的な暮らしの中に身を投じました。
今までとはうって変わり、ゆったりと流れる時間の中、富山のとあるレンタルのガラス工房で思い出したようにガラス制作を始めました。
ガラっとライフスタイルが一転したこの時期に、ガラス工房で炉の前に立って火にあぶられることが、滝に打たれる修行僧のような想い。
しかも、つくりだされたガラスの透明さが、艸田さんの中ではまさにリセットされていく象徴となることを強く意識するようになりました。


ピンブロウにより、(右から左へ)
内部の空洞が大きくなっていく過程

ガラスというと“吹きガラス”が一般的ですが、艸田さんの作品は“ピンブロウ”という技法で作られています。
これは、鉄の竿の先に炉の中の溶けたガラスを巻き付け、その先端に千枚通しを突き刺す。 濡れた新聞紙を鉛筆状にしたものでその穴をふさぐ。 新聞紙の水蒸気が針穴に吹き込んで、ガラスの内部の空洞がどんどん大きくなっていく。 艸田さんが制御するのは、ガラス面を全く触らずに竿の軸をキープしながら遠心力だけで輪郭線をつくっていくこと。
こうして自然にできあがるフォルムと佇まいに、限りない透明感と命が息づく。 作為なきこの行為は、弓道や書道、座禅、・・・などの、身がピンと引き締まるような、僧がお経をよむような感覚に似ているとおっしゃいます。
かつての自分の会社員時代のように忙しく働いている人にとって、艸田さんの作品がホッと一息つくきっかけとなるようなものであればよいとも。
艸田さんと話せば話すほど、彼からは野心や私欲が微塵も感じられなく、哲学者とか禅僧と向き合っているような気分になります。
澄み渡った無色透明な精神が、そのままガラス作品に憑依しているのかもしれません。

 

美白な若杉聖子さんと美白な若杉作品


のどかな三田の風景
池の中に新宮晋さんのオブジェが画像コメント

昨年、岐阜県土岐市から兵庫県三田市へ工房を移転されたばかりの若杉聖子さん。
三田は私の実家の大阪府豊中市からは約30キロの距離で、プライベートでも何度か訪れています。 田園風景が限りなく続くのどかな町で、春先に行ったときには川沿いに立ち並ぶ桜の木が満開直前で、ノスタルジックな光景でした。
三田の聖子さんのアトリエには二度目の訪問でしたが、その大家さんの文化意識の高さには目をみはるものがあります。
聖子さん他、ものづくりをする作家さん方がとても守られている創作環境を提供されています。
世界的な彫刻家・新宮晋さんも、そこ三田におられ、大家さんの広大な土地のあちらこちらに新宮さんのスチールの大きな彫刻作品が置かれている。
そして、この6〜9月、田んぼの中に大きなビニールハウスを設営し、新宮さんのアートイベントが開催されています。
新宮さんは豊中ご出身で、しかも私の高校の大先輩であると、後にわかり、急に親近感を覚えうれしく思いました。

石膏の型と鋳込んだ作品

さて、聖子さん。近畿大学文芸学部で陶芸を学び、1年生のときに観たオブジェ展での中島晴美さんの作品に衝撃を受けました。
大学卒業後、滋賀県立陶芸の森でスタジオアーティストとして、制作すること4か月。
中島さんが講師をされていた多治見市陶磁器意匠研究所に移り、2年間学ぶ。
この通称“意匠研”が、現在大活躍する若手の陶芸家をたくさん輩出していることは特筆に値します。
横山拓也さん、青木良太さん、川端健太郎さん、新里明士さん、・・・は、聖子さんの先輩で、今ではみなさん人気作家。
聖子さんはその後、会社員となり器のデザインに携わりましたが、2年後、独立し、作家活動を始めました。

聖子さんの彫刻のような美しい造形の作品は“鋳込み(いこみ)”という技法で作られています。
石膏で、原型をつくるのですが、ノミやカンナを使ってあの聖子流の有機的で惚れ惚れするような美形がつくられていきます。
乾いた原型の下半分を粘土で覆い、その外側にアクリル板を筒状にかぶせ、上半分の空間に石膏を流す。
さらに上下逆の作業をし、型ができあがる。
その型に液状の磁土を流し入れ、石膏がその水分を吸いながら層状に乾燥し固まっていく。
狙った厚さになったところで排泥し、型からはずし、ヤスリで磨いたりカタチの微調整を施す。
素焼きし、また磨く。そして、本焼き。これらの気の遠くなるような工程を経て、ようやく完成。
鋳込みで制作される作家さんは多いですが、聖子さんの作品はピーンと張りつめたシャープで緊張感のあるオブジェのようなフォルム。
博多人形の肌のようなマットでなめらかで落ち着いた白。けがれを知らないピュアな優しい白。
磁土はガラス質なので、染みることがなく、この白が保たれていきます。
女性の永遠のテーマ“美白”が具現化された作品。その具現化した当のご本人も色白でベッピンさん。天は二物を与えてしまったのです!
エッジが効いていて、真っ白で無駄のない躯体からは、陰影と稜線が醸し出す魅惑的な世界観が感じられます。
また、この秋からは、京都精華大学の講師として就任。
教えるという仕事をすることで、創作時間が割かれてしまいますが、同時に作家活動に深さをもたらしてくれるかもしれないとおっしゃいます。
ますますお忙しくなられる聖子さんですが、話し方がおっとりしていてやわらかい声のお嬢様タイプ。
しかしながら、内面にはピリっと研ぎ澄まされた高い感性が芯にあることがうかがわれます。
以前、「毎日、作陶していて、飽きたり嫌になったりしないのですか?」と質問したら、
「手で何かをつくりだすことが楽しくて仕方がないから、食事するのも忘れてキリがなく続けられるそうで、どこで作業をやめるかを決めるのが大変。」と。
天職なのでしょう。

コラム vol.37 "艸田正樹さんの精神性" "美白な若杉聖子さんと美白な若杉作品"