ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.53 "山口マオさんのネコ" "玉木新雌さんのショール"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.53 "山口マオさんのネコ" "玉木新雌さんのショール"

<2013年4月号>


山口マオさんのネコ

山口マオさんという名前は有名ですが、意外に女性だと思っている方が多いようです。
たぶん誰でも一度は見たことがある “マオ猫”。
マオさんは南房総にある千倉で生まれ育ち、幼い頃から猫が大好きでした。
また絵を描くのも大好きで、後に東京造形大学に進学、28歳の時イラストレーターとしてデビュー。
“マオ猫”は、登場してから少しずつ進化し、今ではしっぽやヒゲがなくなり直立二足歩行したネコ人間。
マオさんの描くこれらのネコは、彼の精神的な理想像なのだとか。
ヒトはいろいろな立場や状況に応じて、社会的にこうしなければということがありますが、
そんな枠に縛られない自由で気楽な“マオ猫”というわけです。

常に無邪気で屈託のない笑顔のマオさん。
実は“マオ猫”は、彼の理想像ではなく実像かと思わせるような、“子供オトナ”の内面が見え隠れします。
だからこそ、次々と型にはまらない発想が浮かび、多くの作品が生み出されるのだと思います。

マオさんと話をしていると、大人気の大忙しな作家さんではあるのですが、
とても穏やかで、初対面の時から気さくに世間話などもされ、こちらに緊張感を全く与えられない。
こちらが何かを投げかけると、それに対して一心に対応してくださいます。
何度もお電話をいただき、「こんなのはどうですか。」「あれもやりましょう。」と、楽しくなることをあれこれ考えて提案してくださるのです。
こちらも調子に乗って、「こんなことができれば面白そうですね。」と言うと、即、それを実現できるか検討してくださる。
オープンハートで人懐っこいご性格は、他人に対してもそうだし、絵にも表れています。
きっとおおらかで深い愛情の中で育ってこられたのでしょう。
「大きな愛情を受けて育った子供は、大人になると大きな包容力を蓄えている」と聞いたことがあります。
マオさんの“包容力”こそが、創作の要になっていると確信します。

私の娘が幼いころはまだ出版されていませんでしたが、最近の若いお母さんやお子さんたちの間で、 マオさんの“わにわにシリーズ”が大人気なのだそうです。
ワニだけど怖さがなく、でもちょっと不気味でユニークでお茶目で親しみ深いキャラクター。
お風呂のシャワーをマイクに歌ったり、エプロンをかけて肉を焼いたり、・・・・・。
子供たちがきゃあきゃあ喜んで何度も見たい絵本なのが理解できます。

今回は、マオさんによる贅沢なワークショップが二つ。
一つは、木版画を作ります。
もう一つは、絵本ができるまでのお話と、マオさん直々の読み聞かせ。
どちらも、お子さんから大人まで、ご興味のある方はぜひご参加くださいね。

版画、ドローイング、立体、グッズ、絵本など、楽しいマオワールドが展開されますので、お楽しみに!


玉木新雌さんのショール



“日本のへそ”と言われる兵庫県西脇市は、18世紀末からの長い歴史のある先染めの綿織物“播州織”の産地。
戦後はバーバリーやブルックスブラザーズなど欧米のデザイナーとも提携した輸出向けのものづくりで栄えました。

福井ご出身で、大阪の大学、専門学校で、服飾を学んだ玉木新雌(にいめ)さん。
卒業後、パタンナーとして服飾商社に勤めました。
そののち、西脇に伝わるヴィンテージの力織機を譲り受けることで、新たな播州織に携わることを決めました。
新雌さんが播州織作家として独立したのには、
ファッションに関わるも流行に左右されず型にはまらないショールを作りたいということから。

工房にお邪魔してきましたが、広さも高さも大きな空間に巨大な力織機がいくつか配されていました。
1960〜80年代に使われていたヴィンテージの機械は大きいけれど、
その仕組みはとても繊細で精密であると同時にアナログ的である。
稼働した途端、ものすごい音をたてて動き出します。

新雌さん自身が織りあげる一点モノと、彼女デザインで職人さんに依頼し少量生産する二つのスタイルの作品。
彼女がデザインした糸の色や柄などは、白くて長いシートに昔のオルゴールのようにたくさん穴があけられており、
その穴の開き方が機械に指令する設計図のようなもの。
ものすごい本数の細い綿のたて糸を手でかけるところから始まります。
織っている最中に、それらの糸が一本でも切れたら、また手で結びなおす。
こうして手をかけて織られた布の柔らかさには驚かずにはいられません。
綿毛の中に包まれるような肌触りです。

また色の掛け合わせも新雌さん独特。体に巻きつけるたび、色の出方が変わって違う雰囲気を楽しめる。
そして、もう一つ、大きな魅力は、大きさ、長さです。
比較的大きくて長い新雌さんのショールは、薄くて軽くて柔らかいので、ぐるぐる巻きにしてもゴワゴワしません。
巻き方のバリエーションも多く、いろいろなスタイルを作ることができます。
この気持ちよさを体感してみませんか。

コラム vol.53 "山口マオさんのネコ" "玉木新雌さんのショール"