千葉惣次さんと真理子さんの伝統と革新
千葉県長南町に江戸末期からずっと伝わる“芝原(しばら)人形”。
日本全国に郷土人形は多く存在し、その土地土地の特色があります。
京都の“伏見人形”が洗練されているのに対して、芝原人形には素朴で土着の雰囲気が色濃く見られます。
庶民の暮らしの身近にある行事や縁起物や動物たちが、見る者に笑みを与えるような明るいユニークな人形です。
正直に申しあげると、私が最初に芝原人形を知った時、なんだか野暮ったくて田舎くさい人形だなぁと感じ、あまり関心は持てませんでした。
しかし、ひとつ買い求め、じっと見ているうちに、何とも言えない親しみやほんわかと胸が温かくなるような感情が芽生え、
ずっと眺めていても飽きず、心癒されるようになりました。
それからというもの、ウチには芝原人形のコレクションが増える増える・・・。
こうしていつも自分の傍で見守ってくれているというよりは、おどけて笑わせてくれているような気がします。
150年以上前から連綿と引き継がれてきた芝原人形が、昭和20年代後半に一度途絶えかけたことがありました。
赤い糸に手繰り寄せられたようなご縁と惣次さんの決意によって、血縁関係のない惣次さんが4代目を継承することになりました。
継承するということは、伝統を守り続けるということ。
伝統を守るということは、その典型をかたくなに崩さずに貫くこと。
また同時に、絶やさないために時代の空気を取り入れた革新を迷わずに行う勇気を持つことだと思います。
そこには過去と現在と未来をつなぐ重責を負う、大切な選択を強いられる役割を担うこと。
代々続く工芸や芸能の世界でも同じことが言えるのではないでしょうか。
そして、惣次さんの奥様で作家でもある真理子さん。
真理子さんの創作に対する技術や感覚はもちろんのこと、惣次さんというこだわりの巨人を支える懐の深さと優しさにあふれています。
5年前に起こった不慮の火事で、伝承されてきた人形の型や国にとっても貴重で希少な骨董の膨大なコレクションを一気に失われました。
当時、ライフワークのうちのひとつである東北の“切り紙”に没頭していた惣次さんは、そのことによって救われたとおっしゃいます。
伝承されてきた切り紙が存続の危機にあったその時、惣次さんの切り紙の著書や展覧会によって、若い継承者が現れ始めた。
その直後、東北の大震災に見舞われてしまったが、また彼らも惣次さんによって救われた。
それら一連のことがらを淡々と見守り続け、芝原人形を惣次さんとともに再生させた真理子さん。
こうして今もこれからも芝原人形は私たちを癒してくれるのです。
今回のテーマ『後(のち)の雛』。
雛と言えば3月の桃の節句を連想しますが、その半年後の9月の菊の節句に雛人形を虫干しをかねて飾る風習があるのだそうです。
またその菊の節句・9月9日は“重陽の節句”と呼ばれ、五節句のうちのひとつ。
陰陽思想で陽は奇数、奇数の最大値の九が重なり、最もめでたい日。長寿を祈る日です。
家庭に女の子が誕生したら、祖父母から贈られる雛人形。
お雛様が女児の身代わりとなり厄を払いのけてくれ、その子の一生の幸せを願う、いわばお守りのようなもの。
最近では大人の女性が自分のためにお雛様を自分で買って飾ることが増えてきているようです。
やはり女性にとっては、お雛様は特別な存在であることはまちがいありません。
今回、新作のお雛様も発表されます。
加えて、いろいろな縁起物や心踊らされる楽しい人形がたくさん登場します。どうぞお楽しみに。
同時開催にて、個性あふれる6作家の手ぬぐいが勢ぞろいします。
どれを選ぶかはあなた次第・・・♪
『chiqon』 (山口)
なんともシュールでププっと笑えるキャラクターが登場します。
『Doucatty』 (沖縄)
ほのぼのとした独特のタッチが親しみを覚えます。
『アケモドロ』 (兵庫)
柴田葉子さんの型染は他では見られない図案が楽しいです。
『久世礼』 (千葉)
ユル〜く突き抜けたユニークさがたまりません。
『にじゆら』 (大阪)
注染の伝統的な技術とにじんだりゆらいだりする新しい表現。絵柄のバリエーションが豊富です。
『松浦香織』 (静岡)
不思議で魅惑的な世界観がひろがります。
コラム vol.82 "千葉惣次さんと真理子さんの伝統と革新"