西禮子さんの絵
福岡出身、千葉在住の西禮子さん。
幼い頃から絵を描くのが好きで、自分で物語を作り、それに絵をつけてよく遊んでいたそうです。
染色家・日本刺しゅう作家のお母様にくっついて、いろいろな展覧会を観てまわり、自分は当然のように絵描きになると思っていました。
でも母親と同じジャンルでは太刀打ちできないので、彼女が唯一足を踏み入れていない油絵をやろうと決意。
高校生の時の美術部の先生の影響は大きく、絵の基本の技術だけではなく、絵に向かう姿勢を教わりました。
また、高1の時に観た画家・三岸節子のエネルギッシュで命のほとばしりが感じられる絵に衝撃を受け、本格的に絵の世界に入ろうと思いました。
東京の美大に進学したかったが、お父様の反対を受け、九州で栄養学を学ぶ。
しかし、その間も高校美術部の先生について絵の勉強をし続けました。
彼は西さんに、大学で学ばなくとも体で体得したものが本物で、コンセプトではなくいかに自分の絵を伝達するかを追求するという教えを今でも守っています。
西さんは゛二紀会”のベテラン会員ですが、彼女の作品からはみなぎるパワーと鋭い感性が成せる潔い洗練が感じられ、清々しさを覚えます。
西さん曰く「ここにこの色のこのカタチがあることが大切」
まさに、自由で柔軟な抽象の構図や、白や赤のコントラストや配色のプロポーション、油彩のマチエールの妙など、全てに魅了されてしまいます。
私が初めて西さんのことを知ったのは、一枚の西さんの個展のポストカードの絵。一目惚れをして、見境もなくすぐに連絡をとりアトリエにお邪魔したのでした。
こうして今回、西さんの大作を展開する運びとなりました。ぜひご高覧くださいませ。
薄井ゆかりさんの裂き織のバッグ
薄井ゆかりさんの横浜のアトリエには大きな織機があり、織っているところを見せていただきました。
機械というよりは何か生き物の呼吸を感じるように一列一列が織られていく様子は心地よいリズムに乗って飽きずにずっと見ていたいと思うものでした。
ゆかりさんの作る裂き織とは、一枚の布を帯状に裂いたもので織るもので、
糸で織られる繊細さはなく、粗いからこそ豊かな表情が表れる素朴さがあります。
裂き織と聞くと、古い着物をつぶして作った和のイメージが強いですが、ゆかりさんの作品は豊富な色遣いでモダンな印象。
現代のライフスタイルに合うバリエーションのある新しい布を裂いて織られています。
また、かっちりした袋ではなく、内袋や裏地がなくても頑丈でカジュアルに気軽に持てるバッグで、使い込んでいくほどに味わいが出てきます。
ゆかりさんが会社員の頃、どこかで沖縄の織の展覧会を観て感動を覚え、週に一度、仕事帰りに織りを習い始めました。
そこからどんどん織りのおもしろさにひきこまれ、小さな織機を買い、仕事から帰って織ることが楽しくてしかたがないほどになりました。
ほぼ毎日のように織機を触り、同じことをやり続けることで自然と体得していきました。
使えるものを作っていこうと、織ったものをバッグに仕立てていき、それがいつの間にか今のゆかりさんのスタイルとなり作家活動をすることになったのです。
山登りが趣味のゆかりさん。インドアな制作とアウトドアな登山。これらが相互にリフレッシュ効果となり、ますます作品がよくなっていく。
もの静かで理知的な雰囲気、強い芯と根性の持ち主のゆかりさんの渾身のバッグをお楽しみください。
萩原千春さんの急須
千葉県野田市で作陶する萩原千春さん。
言うなれば、千春さんの作品は使っていると優しい気持ちになれるような器。
まずは手のひらに乗せていろんな角度から見てみてください。五感がホッコリと満たされる感覚を味わってみてください。そんな器なのです。
私がふだん最も頻繁に使う急須が千春さんの作品。
個人的には、急須やポットなどの注器の造形や質感がおもしろければ使い勝手は二の次でよいと思っているのですが、それでも使いやすいものに手が伸びる。
以前、千春さんの急須を買われた方が、いつものようにそれでお茶を淹れたら、ご主人が「今日のお茶は美味しいね」とおっしゃったとか。
それは、千春さんの作る急須のパーツや繊細にあけられた茶こしの穴など、機能性を追求した作りにより、お茶が美味しくなるのは理にかなっているわけです。
千春さんは武蔵野美術大学の陶磁コースで主に急須やポットの制作に関する講義をしています。急須づくりが陶芸の中でも難しいとされているのです。
そんな急須づくりの工程のデモンストレーションを今回4日に行います。ムサビの授業が間近で見られるチャンスです!
より一層美味しいお茶を飲みたくなることでしょう。
千春さんと奥様で陶芸家の朋子さんとの間に一人息子・伸くんがいます。
絵を描いたり書をしたりするのが好きで、両親が喜んでくれるだろうと『焼』とか『土』とかの書が飾られていました。
きっと愛情たっぷりに育てられたのでしょう。以前、千春さんが仕事で失敗した時に、自ら筆を洗ったりさりげなく手伝ってくれたりしたのだそうです。
6〜7年ぶりに再会した千春さんと朋子さんは、全く変わらずに温かい笑顔で淡々と仕事をしていました。
いつどんな時にも、安心してホッとできる器は、そんな千春さんだからこそ作られるのだと確信します。
コラム vol.96 "西禮子さんの絵" "薄井ゆかりさんの裂き織のバッグ" "萩原千春さんの急須"