ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.11 "小沼寛 さんのおもちゃ箱""杉村徹 さんの道具"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.11 "小沼寛 さんのおもちゃ箱""杉村徹 さんの道具"

小沼寛さんのおもちゃ箱 杉村徹さんの道(ギャラリーテン〜コラム vol.11) <2007年6月号>

小沼寛さんのおもちゃ箱




キーンと冷たく澄んだ空気がほっぺをかすめた昨晩秋の那須。
どこを見ても赤や黄色の紅葉が眼に飛び込んできた。
「わ〜キレイ!」「きれいだなぁ・・・」「うわぁ、真っ赤〜!」と何度も口からついて出てくる。
その日の朝は、まさに秋晴れのドライブ日和でした。
午後からは雨が降り始め、あっという間に綿雪に変わり、それはそれは美しい眺めとなりました。

小沼さんのお宅は、遠くからでもすぐに見つけることができました。
パステル色の塀には、小沼さん作の陶のタイルが埋め込まれ、さながら美術館のエントランスのよう。

敷地内の大きな温室には、ものすごい数の盆栽が。
盆栽家で著名な奥さまの加藤文子さんが、丹精こめて育てられた植物の数々です。
その子たちは、小沼さん作の斬新な鉢に植えられて、のびのびと日光浴をしていました。
「ココ(温室)が私の居場所。ずっと植物を見守っています。」と文子さん。
愛おしい子供をいつくしんで育てるかのよう。
温室の中は、心まで温まる幸せな空間でした。
文子さんと初めてお会いしたのは2〜3年ほど前。
観音さまのような慈愛に満ちたお顔と語り口。
なぜか感動の涙があふれてきて、きちんとお話しできなかったのを覚えています。

小沼さんのお宅に一歩入ると、たちまちアートの世界です。
玄関から奥の部屋に続く土間のいろんな形のタイルを踏みしめながら進むと、絵やらオブジェやら植物やら・・・。
不思議の国のアリスになった気分だ。
アトリエに入ると、ますます小沼さんワールド。
有機的な造形のオブジェや器があっちにもこっちにも。
まるでおもちゃ箱♪ もしくは、宇宙の動物園?
円谷プロの方!小沼さんちに来れば、新しいキャラクターのヒントがたくさんありますよ〜。

20年ほど前、フィンランドでの作陶がきっかけとなり、ロクロをほとんど使われなくなったとのこと。
偉大な自然の中にあったとき、作品がいきいきとそこに存在し、かつ、そこに溶け込んでいく・・・。
有機的なカタチや質感は、小沼さんのそういう意識が作用しているのでしょうか。
どんなカタチになるのかは、手が勝手に動いた結果次第。
こどものような冒険心とあったかピュアハート、洗練された感性、そして魔法の手。
それらが次々と作品を生み出していくのです。

今回、ギャラリー内に、小沼さん作の架空の昆虫が宝探しのように隠れています。お楽しみに!
また、時期を同じくして、パリでの展覧会が。こちらに在廊された足で成田〜PARISへ。
グローバルな活動、ますます眼がはなせません。














杉村徹さんの道具

常滑は、土管や朱泥の急須、植木鉢などで知られる歴史ある窯業地。
車で走っていると、瓦で屋根を葺いた木の壁の古い家がやたらと視界に入ってきます。
そんな中に町並みと調和・同化した杉村さんのアトリエなる建物が現れます。

そこは元土管工場だったそうです。
深い軒の下には、いろんな木材が積んである。
中に入ると、あらわになった立派な小屋組みの柱や梁がどっしりとした安定感で妙に落ち着く。

20〜30坪ほどの大きなスペースですが、木工に関わる大きな機材があちらこちらにところ狭しと配され、圧巻です。

壁に眼を移していくと、今度は多くのカンナや小さい道具が。
まるで美術品のようだ。確かに絵になる。
杉村さんの作品を生み出す道具の最たるもの。
それはご本人の感性を神経から敏速に伝えられていく“手”。
木の塊をまず掘り出していき、削りながら作品のカタチを自由自在にきめていくとのこと。
木と対話し、木を知り、木の表情が最大限に活かされるべく、手が仕事をする。
どこで終わりにするかが難しいらしい。

ウチの暮らしには多くの杉村作品が大活躍しています。
スツール、ちゃぶ台、コンソールテーブル、壁付けの棚、小箱など・・・。

どれもそれぞれの場所で品よくモダンにたたずみ、ありのままの性格の良さ(=素材感)をかもし出しています。
いたってシンプルなのに、よく見るとエッジが効いていたり、小気味よくカーブがついていたり、スタイリッシュだったり、・・・。
カジュアルダウンした艶っぽいイギリスの紳士といった印象でしょうか。
ひとたび杉村作品を知ると魅了されてしまうのは私だけではなく、ファン、現在増殖中です。

ひとつそこに在るだけで、その場の空気感を変えてしまう。
立体的な“置き床”のような存在かもしれません。
部屋のどこにでもカンタンに小宇宙ができてしまうのが楽しいのです。

コラム vol.11 "小沼寛 さんのおもちゃ箱" "杉村徹 さんの道具"