ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.15 "今井一美さんの器""浦田由美子さんの温々作品"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.15 "今井一美さんの器""浦田由美子さんの温々作品"

今井一美さんの器 浦田由美子さんの温々作品(ギャラリーテン〜コラム vol.15) <2008年2月号>



器好きのきっかけとなった今井さんの作品



今井一美さんの器

もう十年ほど前、近所にあった板橋にある“瑞玉”さんという老舗のギャラリーに友人とふらりと入りました。
たまたま個展が開かれており、目の前に現れた作品の数々に新鮮な感動をおぼえました。
その頃ずっと陶芸教室に通って作っていた稚拙な私の器とは天地ほど違う魅力的な作品たち。
なんとも楽しくなんとも斬新な器で、一目惚れ。
そのとき、ちょっと高価に思えて躊躇しながらも、どうしても欲しくてたまらなくなり、思い切って一つ大鉢を買いました。
それが今井一美さんの作品だったのです。

このことが、私が蟻地獄の底にどんどん陥っていくかのごとく作家モノの器にのめりこんでいくきっかけとなりました。
ひとつ今井さんの器が家の中にあると、今まで気に入って使っていた器に突然興味がもてなくなってきてしまいました。
それからというもの、何にでもハマりやすい私は、あちらこちらのギャラリー巡りをするようになり、
「なにこれ〜。ステキ〜!」とか、「こんなの初めて見たよ〜。」とか、「これが私を呼んでいる。」とか、・・・・・。
ひとり勝手に盛り上がりいろんな器を連れて帰ってくるようになりました。
3つに2つくらいの割合で、夫にばれないようコソっとどこかに仕舞いこみ、ほくそ笑んでおりました。
ちなみにこれらの器は、4年前に千葉に引っ越してきたときに、ゾロゾロと姿を現し、夫の苦笑とあいなりました。

もしかすると、私の器好きが高じて始めたgallery tenが存在するのは、今井さんのおかげかもしれません。
あのとき、今井さんの作品に出会わなければ、ウェッジウッドのフルセットの器で自己満足に浸っていたかもしれません。
いや、ひょっとしたら今頃100円ショップの器でごはんを食べてヘラヘラしていたかもしれません。
きっと今井さんご本人と彼女の作品との出会いは運命だったのでしょう。

今井さんの作品は、キレイな色でちりばめられた絵柄が特長です。
「かわいい!」と思わず口をついて出てしまうのですが、甘ったるいファンシーなかわいらしさとは違います。
自分の中にあったのかと気付かされるような乙女心を呼び起こされる今井さんの世界。
また、今井さんの器の表面はざらざらとしていて、手の全神経に土モノのあたたかさが伝わります。
それは、成形した生乾きの状態のときに麻布をかぶせ、その上から泥状の白化粧を施します。
ある程度乾燥したらその布をはがします。ざらざらの肌は、その布目なのです。
それを素焼きし、その後、施釉して本焼き、そして上絵の具で描いた後、再度焼成する。

今回の打ち合わせでアトリエのみならず今井さんのお部屋にも入れていただきました。
隅々までビシっと整理整頓がいきとどいた気持ちのよい清々しいインテリア。棚にはセンスのよい小物がレイアウトされている。
時々、今井さんから送られてくるポストカードには、ポップなキャラクターのステッカーなんかが楽しく貼られていてウキウキします。
ヘアスタイルやファッションもいつもチャーミング。
そう。チャーミングなのです。作風すべてが今井さんそのものだと確信しました。

今井さんの作品を生み出す想いは、地に足の着いた暮らしの上での日常の食卓を彩る器づくり。
飾ったり仕舞い込んだりして大切にするのではなく、毎日きもちよく使って大切にする、そんな暮らしに密着した器づくりです。
手にとってホッコリしたり、盛った惣菜がよりおいしく楽しく見えたり、このお茶碗が自分のものだという愛着がわいたり、・・・・・。
毎日使うからこそ、お気に入りの器で豊かな気分になること、これが家族の幸せにつながっていくのは確かでしょう。

浦田由美子さんの温々作品


ふわふわの原毛


ローリングの前(右)、後(左)

京都・北大路堀川に浦田由美子さんを訪ねました。
JR京都駅からバスに揺られ30分ほど。
碁盤目に通るまっすぐまっすぐの広い道路をひたすら北上する。
近代的な商店などがちらほら見えるが、やはり圧倒的に京都の町並みは歴史的情緒をかもしだしています。
私が伺った昨秋の紅葉の季節、多くの観光客たちであふれかえっていました。

浦田さんのフェルト作品はオトナテイストです。
色使いもトーンを落とした渋めの配色でシンプル。

フェルトは、ふわふわの原毛を石鹸水に浸し、ゴシゴシとこすります。糸状だったものがだんだん平面化してくる。
かなりの重労働だそうです。
ある程度カタチになったものを、こん棒のようなものに巻きつけゴロゴロとおさえつける。
蕎麦打ちを連想するが、お蕎麦の生地のように薄く広くなっていくのではありません。
できあがると元の形の2〜3割は圧縮され小さくなって、不織布としての強度が増しているのです。

何か絵柄を加える場合、畳針のような太くて長いニードルで、異なる色の羊毛をつっつきながら入れ込みます。
その針には、昆虫の脚のような細かい突起が出ていて、それに羊毛がひっかかり基盤のフェルトに定着させるのです。
結構気の遠くなるような作業ですが、徐々に絵柄があらわになってくる。
なんとなく自分でもやってみたいという衝動にかられました。

私が子供の頃、いろんなキレイな色のフェルト布を買ってきては、さまざまなマスコット人形をよく作ったものです。
かわいい動物やキャラクターというよりは、次々と(?)好きな男の子にそっくりな人形を作って、いつもカバンにぶらさげていました。
細かく切ったフェルトをアップリケのように縫いつけ、人形の顔や洋服の柄をつけました。
その縫い付ける糸が調和しなかったり鬱陶しかったりした覚えがありますが、その頃、針で柄を作るということを知っていればもっと洗練されたものができたかも。

今回、バッグ、マフラー、帽子、アクセサリー、コースター、人形、スリッパ、・・・・・、寒い冬を彩るたくさんのキュートなぬくぬく作品が勢ぞろいします。
待ち遠しい春まで、手軽に温かさとちょっとしたアクセントを取り入れられるような、ずっと活躍してくれるアイテムたちです。

コラム vol.15 "今井一美さんの器" "浦田由美子さんの温々作品"