ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.76 "今井一美さんの変わらぬスタンス" "續山茂樹さんの旅の色の記憶" "親近感あふれるTIGRE BROCANTEの服"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.76 "今井一美さんの変わらぬスタンス" "續山茂樹さんの旅の色の記憶" "親近感あふれるTIGRE BROCANTEの服"

<2015年3月号>

今井一美さんの変わらぬスタンス

今井一美さんとのお付き合いは長い。
東京芸大在学時の発表作品から基本的に変わらない陶作品を延々と作り続け、それらはずっとずっと多くのファンに支持され続けています。
今井さんがよく口にする「身銭をきって気に入ったモノを買って使いまくってこそ作品は生きる。」という言葉。
日常に使いやすい仕様やサイズ感に気を配った器を地道にコツコツと少しずつ作り続けるという今井さんの信条。
このことはとても大切であり、難しいことだと思います。
同じ想いで同じテンションで同じ作業をずっと続けるには、強いマインドがなければできません。
それらを淡々とこなす今井さんが作る器だからこそ、ゆらぎない信頼できる生活の道具として使え、
なおかつ心豊かにしてくれる色鮮やかな絵付けの世界観を楽しめるのですから、
一度使ったらそのよさを実感し、また買い足していくという構図ができているのです。ファンが増えていくのは言わずもがな。

大きな絵柄のついた器は使いづらいのではないかと思われる方もありますが、盛った料理を食べ進めてどんどん器の絵が見えてくる楽しさまで味わえる、
あるいは、器そのものに描かれたカラフルなおいしそうな絵で、食卓が一気に明るく華やかになります。
大人にも子供にもわかりやすい野菜やフルーツなどの絵は、ちょっとリアルでファンシーなかわいらしさではないというところもよい。
今井さんの器は他にもありそうで意外にない。マネしようと思えばできそうですが、
器の厚みや質感や絵のテイストなど、独自のものなのです。
ひとり冷静に黙々と用の器を作り出す今井さん、そして作ったものの在庫がいつもアトリエにない。
確実に作り確実に消費され確実に注文が入る。使った者だけがわかる今井作品の魅力を物語っていると思います。



續山茂樹さんの旅の色の記憶

東京目白で生まれ育った續山茂樹さんは、幼稚園時代から絵を描くことが好きでした。
小学校の先生が版画が上手で、年賀状が届くのを楽しみにしていたそうです。
中学時代、授業で大いに木版画を作った。
高校時代、彫刻刀を買って木版画にのめり込んでいく。
大学はデザイン科に進んだが、あまり授業には出ず、日本中あちらこちらに旅をしました。
また、当時、美術出版の浮世絵をたくさん観ました。
現在茂樹さんは63歳。今の創作は当時見たり感じたりしたことが生きているとおっしゃいます。
版画だけではなく、いろんなオブジェや道具など何でも手を動かして作ることがお好きで、お宅やアトリエがアートであふれています。
大学卒業後は木版画に没頭するため、就職はせずアルバイトで生計をたてる。
以降、日本でも屈指の大きな公募展国展”で入選後、国画会”の会友→準会員→会員となり現在に至ります。

續山さんの版画作品は色彩豊かな抽象画。
一枚の絵の木版画を作るためには、絵柄や色遣いによって、部分部分の版を何枚も彫っていきます。
それらの版木に絵の具を塗って摺り、次の版木に絵の具を塗って摺り重ねる、・・・・・この繰り返し。
彼の眼にうつる風景は、木版画の何枚もの版のように色を分解して見えるそうです。
そんな見方をしたことがないのでおもしろいなと思いました。これは版画、特に木版画の作家ならでは。
今後は色数を抑えて版数を増やした作品を作っていきたいとのこと。たとえ単色でも重ねて重ねて深みを出すということ。
多感な学生時代に見て脳裏に焼き付いたいろいろな風景の記憶をひも解いて、今も版木を彫り摺り重ねて續山さんのフィルターを通した風景ができあがる。
續山さんの作品から逆にどのような具象の風景が見えてくるか、そんな見方も楽しいでしょう。どうぞご高覧くださいませ。





親近感あふれるTIGRE BROCANTEの服

1998年TIGRE BROCANTE”は、デニムを主体とした大人のワークスタイルをコンセプトに誕生したブランド。
服や雑貨が地元福岡を中心に熱烈に愛されています。
手に入れた時の喜び、袖を通した時の気持ちよさがいつまでもつづく服。年月を重ねるとともに風合いや愛着が増す服。
ブームが過ぎたからといって着られなくなるようなものではなく、流行が巡るたびに衣装ケースから取り出しては何度も楽しめる服。そんな流行に染まらない服。

代々続く呉服店に生まれた社長の野ア正光さんは、幼少の頃から藍色に親しみと安らぎを感じていました。
東京の衣料メーカーに就職し、デニムづくりに携わっていた時、
「インディゴ染料だけではなく、日本には藍がある」と思い至ったのだそう。
天然の藍染を高価な民芸品だけでなく、もっと多くの人がカジュアルに楽しむことができればという想いがこのブランドの原点。
インド藍で染め上げたものをはじめ、刺繍や織り、ブロックプリントなど世界の現地でしかできないものづくりがなされています。

そもそもティグルの服を知ったのは、gallery tenのランチでお世話になっている農家kiredoの栗田貴士さんが着ていた服に興味を持ったことから始まります。
彼は福岡での大学生時代、バイト代を全部ティグルの服につぎ込むほどの大ファン。
その後私は何度となく福岡店に足を運ぶ度、ほしいものだらけで何を買って何を我慢するのか悩みます。
大人のカジュアル服”とでも言えるでしょうか。肩肘はらずに着られる楽な服ですが、プレミアムなイメージさえ感じられます。
またティグルの店内は、スタッフの方たちの雰囲気、空間全体が居心地がよく、服+人+場のハーモニーが充満しています。
気分を解放してくれ、自由なスタイルを楽しみ、老若男女の個性をも引き出す親近感あふれる服。
今回初めて展開するティグルの服を、いろんな方にいろんな風に着て楽しんでいただきたいのと同時に、
いろんなスタイルを発見すべく私自身も楽しみたいと思っています。


コラム vol.76 "今井一美さんの変わらぬスタンス" "續山茂樹さんの旅の色の記憶" "親近感あふれるTIGRE BROCANTEの服"