ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.18 "POWWOW(林みちよさん)""松岡洋二さんのワイングラス"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.18 "POWWOW(林みちよさん)""松岡洋二さんのワイングラス"

POW WOW(林みちよさん) 松岡洋二さんのワイングラス(ギャラリーテン〜コラム vol.18) <2008年8月号>

POW WOW

林みちよさんの陶芸の原点ともいえる“POW WOW(パウワウ)”という喫茶店。
ご主人が営んでおられたそのお店で使うためのシュガーポットを林さんが作られたのが始まりだそうです。

神楽坂で約35年間たくさんの方々に愛されてきたそのお店は、残念ながら今はもうありません。
東京理科大学のビル化計画による区画整理のため、一昨年末、余儀なく立ち退くことになりました。
50年以上も前に理科大に通っていた私の知人がおっしゃっていたことを思い出しました。
「あの頃は僕も血気盛んな男子学生でねぇ。授業中、窓の外から『チントンシャ〜ン♪』と芸者さんのお稽古の音が聞こえてきて、勉学に集中できなかったよ。」と。
神楽坂といえば東の祇園のようなところ。
情緒あふれる文化が根付き、そこには長い間培われてきた街のしっとりとした空気というものがあったのでしょうが、
年々、街並みが近代化の波に呑まれていってしまうのは寂しいものです。

私が林さんと初めてお会いしたのは、もうすぐなくなってしまうとはつゆ知らないその喫茶店にて。
どこかの山荘に入ったかのような木の温もりあふれる店内。
こじんまりした居心地のよいカウンター。
2階にも喫茶スペースがあり、さらに壁には林さんの絵や器やオブジェ、テーブルの上には林さんのシュガーポットが置かれていました。
あのほっこりする空間の中では、シャープでモダンな林さんの作品に、巧みなミスマッチを感じました。
友達となら2階でゆったり。一人なら1階のカウンターでマスターとおしゃべりしたり本を読んだり。・・・と心落ち着けるお店でした。

林さんの陶の作品は彫刻のように美しい造形、独特の釉薬の肌が特長です。
20世紀を代表する陶芸家のルーシー・リーを髣髴とさせるような麗しい作品に眼を奪われ、何か心底からフツフツと沸いてくる詩情まで感じる。
カップひとつでさえ、芸術性の高さに酔いしれることができる林さんの感性とはいったいどういうものなのでしょうか。
ご本人は気さくで細やかな心遣いのある方ですが、内面に哲学的な美意識を強くお持ちなのだと思います。
この美意識による創作は、日本のみならず海外のいたるところでも注目と高い評価を受けられ、グローバルに活躍なさっています。

林さんの作品がひとつあると、まさにアートの魂がそこに宿ります。
愛でる喜びというものを実感します。
凛とたたずみ、まるでバロックの時代の静物画を連想させるような気配さえ漂います。
今回の展覧会では、住空間で身近なアートにふれ感じ入っていただくことができるでしょう。お楽しみに。




松岡洋二さんのワイングラス

御殿場のすぐ北、小山町の松岡洋二さんのアトリエを訪ねました。
洋二さんの奥様・装子さんの2年前の展覧会の前にもお邪魔し、今回で2回目。
彼とは、ずっとお会いしていませんでしたが、そのブランクを全く感じさせない気がおけない雰囲気。
男性で一緒にいてここまで楽な人はソウソウいないと思います。
初対面のときからずっとそうですが、まるで竹を割ったような性格の女友達といる感じです。

洋二さんのものづくりには確固としたポリシーがあります。
プロダクト製品では出せない微妙なラインや厚みを出し、あたかも「ここにあるぞ」という存在感を消すかのような自然体かつシンプルな器。
でも、料理や花を容れたとき、想像できないほどの魅力を放つ器なのです。
改めてその器を見ると、絶妙なバランスの完成形がそこにあります。
そしてそれに洋二さんそのものが映し出されていると確信します。

最近、洋二さんはワインを美味しく飲めるグラスを研究しておられます。
私はワイングラスやシャンパングラスをひととおり持っていますが、ここ2年くらいは使ったことがありません。
どんなお酒もやきものやガラスや銅のカップで飲んでいたのですが、ここはひとつ久しぶりにワインをちゃんとカタチから飲んでみることにしました。
ワイングラスというものにワインを注ぐと、透明でふくよかな胴体から鮮やかな色を楽しめる。
バランスのよい美しい脚を指先でつまみ、すぼまったグラスの開口部を鼻に近づけ香りを頭の芯までそっと吸い込む。
繊細なグラスの口に唇をつけ、ゆっくり傾ける。
今までなんてもったいないことをしていたんだろうと後悔するほど、明らかに味わいが違うことに今頃気がつきました。

この際、ソムリエの友人にも尋ねてみました。
ワインを美味しくいただくには、大きく3つのポイントがあるそうです。
まず、品質管理がきちんとなされている酒屋でワインを購入する。気軽に飲むものではニュージーランドのものがコストパフォーマンスがよくお奨めだそう。
次に、ワインの温度。赤ワインは常温で飲むのがセオリーですが、気温に応じてワインの温度も変えてあげるとよりよい。
あと必要不可欠なのが、グラスの選択。
厳密にはワインの品種によってグラスの形状や厚みなども違うようですが、グラスに依るところが大きいとか。どんなによいワインでも、ゴブレットなんかで飲むと台無し!

うれしがりの私はグラスコンペをしてみたくなりました。
バカラ、リーデル、千葉にあるスガハラ、そして洋二さん。この4つの同じタイプのグラスで同じワインを飲み比べてみることにしました。
さて、ひとりよがりな審査結果。
ブルゴーニュタイプの同じようなグラスを選んだつもりが、やはり形状や容量が統一できていないため、公正に比較することができませんでした。
ただ、形状がいかに香りと味わいに影響を与えるかだけははっきりとわかりました。(え、それだけ?)
ワイングラスは薄い方がよいとされていますが、薄さで言えば洋二さんのは一番厚い。
でも他のグラスの口がピーっとのっぺり薄いのに比べ、洋二さんのはほんのキモチまくれていて、唇に吸い付く感じがある。
脚も他のグラスがストーンとまっすぐなのに比べ、洋二さんのはやさしい曲線があり、指先でつまんだときに安定感がある。
洋二さんのお人柄も知っているし、吹かれた造形が美しいし、これはどうしても洋二さんに軍配を上げてしまおうという私情が絡んで、一番おいしく感じられました♪
このことがきっかけとなり、もう少し時間や気持ちにゆとりをもち、ワインを楽しむことへのこだわりをつきつめてみたいと思うようになりました。

コラム vol.18 "POW WOW" "松岡洋二さんのワイングラス"