ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.91 "松岡ようじさんの作品の美" "大谷哲也さんの作品の美" "菊地流架さんの作品の美"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.91 "松岡ようじさんの作品の美" "大谷哲也さんの作品の美" "菊地流架さんの作品の美"

<2016年6月号>


松岡ようじさんの作品の美

10年ぶりに松岡ようじさんに会いました。人懐っこい笑顔とソフトな語り口調は変わらず、あっという間にスッと自然に人の懐に入り込んでくる人です。
多摩美術大学を出た後、現在は多摩美の教授・高橋禎彦さんに師事。そこから独立して23年。
ようじさんのガラスの器は、柔らかくしなやかで温かみが感じられる。おおよそ、ガラスを形容するワードとはかけはなれています。

最近、料理をするようになったようじさんは、器そのものではなく『美味しく食べる』『美味しく見せる』という意識が芽生えてきました。
その意識によって、何かがだんだん変わってきているのを感じます。
料理を作る目線になったようじさん、木の器がほしいと思い、なんと旋盤を入れ木工を始めました。
ガラスと木を料理に例えるなら、ガラスはチャーハン、木は煮込み。瞬間的に造形するガラスに対して、ゆっくりと形になっていく木。
この相反するものを並行して制作していくことが相乗効果を生み、今まで以上にガラス制作が楽しくなったのだそうです。
そして、以前はガラス器を作るだけだったのが、料理を美味しそうに盛り付けたくなり、器としての大きさやカタチや厚みなどに意識が働き始めました。

ようじさんの若い頃は、シャープでかっこよくて上手い作品を目指していましたが、ここにきて肩の力が抜けた自然体で安心感のあるものを作っていきたいと言います。
なんだかようじさん自身が作品となって表れているような気がします。とても幸せそうなのです。
今企画展のテーマは『BEAUTY BEAUTY』。
たたずまいそのものが愛情に満ちたぼんやりとした美しさを持つ器が、食卓で料理を盛られてますます美しさを増す・・・。
そのような展覧会にしたいです。 どうぞご高覧くださいませ。










大谷哲也さんの作品の美

信楽で作陶する大谷哲也さん。 奥様で陶芸家の桃子さん、3人の娘さんと1匹の犬と2匹の猫がご家族。
住まいの隣にあるアトリエでの仕事、家事、食事、・・・・・。これらは特別なことではなく、切り離せない毎日の暮らしの流れの一部。
大谷さんのブログからは、家族全員で美味しいものを調達し美味しいものを作り美味しいものを食べるという”食”を大切にされていることがみてとれます。

そもそも大谷さんは大学では理系の学部で工業デザインを学びました。
子供の頃から好きだった車のデザイナーを志していましたが、当時バブルがはじけて、その職業に就くには相当難関なため断念。
ワーキングホリデーでオーストラリアに行き、デザインの仕事をしました。
帰国後、信楽の窯業試験場でデザインの講師として勤務。
陶芸の産地でもある信楽にいて、フツフツとやきものをやってみようかと思い始める。
日中は仕事をし、早朝4時〜7時に、毎日独学でろくろをひく。
大谷さんのマジメさ、粘り強さ、負けん気強さに驚かされるのですが、それらの要素を”継続”する力が人並み外れているのだと思います。
大谷さん曰く、陶芸の学校に習いに行くのではなく、自分で試行錯誤を重ね毎日毎日やり続けることで体に入ってくる感覚が財産だと。
こうして今の”陶芸家・大谷哲也”があるのですが、現在、国内のみならず海外でも人気沸騰中!

シンプルな白の器の代名詞になりそうな大谷さんの作品。
『洗練を突き詰めると簡潔になる』 レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉で、アップル社のスティーヴ・ジョブズやジョナサン・アイヴが目指したコンセプト。
まさに大谷さんの作品もこれに当てはまると思います。
ムダをどんどん剥ぎ取っていった後に残ったミニマルな器は、無限大の包容力を秘める。そして洗練の美をたたえているのです。












菊地流架さんの作品の美

生まれ育った岡山で鍛金でカトラリーなどの食器を制作している菊地流架さん。
クリスチャンのお父様がつけられたという”流架”という名前。
アポイントをとり、駅まで車で迎えに来てくれたルカさん、ずっと女性だと思っていたら、そこにいたのは男性でした。
人の先入観とはいい加減なもので、いざ男性だとわかったら、繊細な作品のフォルムも やはりコレは男性的だと思ってしまうものです。
シンプルだけど特徴があり、使いづらいのかと思うと意外に使いやすい。
お父様が真鍮のアクセサリーの作家で、そのお仕事を手伝いながら技術を習得。
料理好きで、昔アルバイトをしていた蕎麦屋さんが懐石を作家ものの器で供していたことが、今の菊地さんの創作活動の礎を築きました。
アクセサリーを作るというよりは、食の場面で使えるカトラリーを作り始めたのです。

菊地さんのカトラリーは、不思議な魅力を放つ。
クラシックでもあり、モダンでもある。 真鍮のシックな黄金色がテーブルコーディネートをピシっと引き締め、格調が高くなるが堅苦しくない。
ただ美しいだけではなく、微妙な抜け感が菊地さんのカトラリーにはあり、日常使いとして楽しめるのが良いと思います。
また経年変化していく真鍮素材の味わいが、食卓がより趣深くなるでしょう。



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