ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.71 "日本一忙しい陶芸家・内田鋼一さん" "gallery ten 10周年を迎えて・・・"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.71 "日本一忙しい陶芸家・内田鋼一さん" "gallery ten 10周年を迎えて・・・"

<2014年10月号>

日本一忙しい陶芸家・内田鋼一さん

三重県四日市の内田鋼一さんのアトリエに何度めかの訪問。
内田さんは20代のころから、もう20年以上ずっと、すさまじいスケジュールの中、走り続けています。
国内外での作品の展覧会、自治体からの制作依頼、建築・空間プロデュース、異業種とのコラボ、講演、執筆、取材受け、・・・・・。
四日市の家にいるのは一年の半分くらいだそうだが、その間は、人と会うことも多い。
そして睡眠を削っての制作。アシスタントはいるけれど、搬出入や梱包作業を任せ、基本的には内田さんが一人で作る。
そんなハードな毎日を送って、体調を崩すこともあったが、それでもなお仕事が迫ってきていたという。
いつも自分の立ち位置や信念がゆらがず、淡々と黙々と巡りくるオファーやチャンスに立ち向かっていく姿はとても凛々しい。

ある骨董商の方から耳にしたのですが、将来のために買っておくという現代作家の筆頭に内田さんの名前があがるらしい。
今、ウケているとかブームだとか、そういう一過性の人気ではない。
独創性と作品力は、今もこれからずっと先も、潜在的、顕在的な高い価値を誰もが認めていると言えるでしょう。

内田さんの個展の初日には、どんな会場にもバーゲンセールのように多くのファンがつめかける。
無名のgallery tenでは今回が3度めの個展で過去にそのような経験がないのが情けなくもあるが、じっくりと作品を見て買うということも大切だと自分に言い聞かせる。
“内田鋼一”という名前を知らないお客様もウチにはたくさんおられ、その方たちに知名度ではなく作品そのものの魅力を実感していただきたいとも思っています。
こうして内田ファンがどんどん増殖して、次なる個展会場に新たな作品を求めていくのでしょう。
そして、内田さん自身も各会場ごとに必ず新作を発表し、ファンの心をつかんで離さないのですが、そのパワーと感性が持続するところがすばらしいのです。

内田家のご長女は都内の大学に通う学生。
つい最近、電車内で外国人の男性が周囲の人たちに英語で何か尋ねるも誰も相手にしないという場面に遭遇し、
英語が堪能な彼女が話しかけたところ、吉祥寺への行き方が知りたかったよう。
また、彼は海外で活動する映像作家で、代官山で数日後に開催される大好きな日本の作家のKouichi Uchidaの個展の会場の下見に行ってきた帰りだという。
彼に「その作家を知っているか?」と聞かれ、「あぁ、名前だけは知っている。」と答えたそうです。
内田さんは子育ての場面では、奥様の京子さんに任せ、ほとんど何も口出しをしない放任主義。
でも、上記のような感動的な体験は、内田家の3人の子供たちには何度もあることで、父親の生き様や大きさを間接的にでも身を以て感じているはず。
この子供たちがどんな仕事をもつ大人になるのかが楽しみです。

一見、強面でとっつきにくそうな内田さんですが、中身は男気があって思いやりにあふれています。
3年前の大地震のとき、東北〜関東では電話もメールもパンク状態で不通の状況でした。
そんな時、なぜか通じた内田さんからの「大丈夫?」というメール。とてもうれしかった。
言葉少なにさりげない気遣いを過去に何度も感じたことがある。そんな人なのです。
10年後、20年後、30年後、また没後の遠い将来、内田鋼一という人と作品はどんなふうになっていくのか、興味津々である。



gallery ten 10周年を迎えて・・・

20歳代のころの私は、インテリア、アート、ファッションなどに興味がありましたが、工芸作品にはほとんど見向きもしませんでした。
結婚して娘が3歳になった頃、近所の友人に誘われて陶芸教室に通い始めました。
粘土をさわって何かを作るなんて子供に戻ったようで、それはそれは楽しくて最初は週に何度も通い詰めていました。
その教室は埼玉県朝霞市にある“丸沼芸術の森”という敷地内にあり、
東京芸大を出た陶芸家、彫刻家、画家、また当時は今をときめく現代美術家・村上隆さんのアトリエもありました。
陶芸教室の先生の個展にと初めて都内のギャラリーに行って、プロの陶芸家の作品の魅力にとりつかれました。
それからというもの、陶芸教室は休みがちになり、いろいろなギャラリーに足を運んでは作品を買い求め、家では夫に見つからないように箱ごと隠しもっていました。
その6〜7年の間に、かなり多くの作家の作品を知り、だんだん自分の好みというものの外郭が固まってきました。

2004年4月、外房に家を建て引っ越してきました。
以前から家でじっとしていられない性質で、1週間の半分は仕事、もう半分は趣味や遊びの時間を確保したいと、
娘を幼稚園の延長保育や小学校の学童保育に預けていましたが、その頃小学4年生になり学童入所資格がなくなってしまいました。
子どもを鍵っ子にするのは気の毒で、何か家で仕事ができないかと思い、好きな陶器を紹介するギャラリーをやろうと突発的に思いつきました。
当時は、一時ブームにもなったホームショップという業態も下火になり、自宅でやるということが主婦の趣味でやる甘ったるいものととられることが懸念されました。
ところが、怖いもの知らずというか無謀というか、思い立ったら即動かずにはいられないため、好きな作家さん方に直談判をしていきました。
通い詰めていたいくつかのギャラリーで発表されているのが私の知っている作家さんの全てで、すなわち有名な作家さん方でした。
こんな素人の私の話をきちんと向き合って聴いてくださり、受けてくださるという作家さん方の懐の深さには感動しました。
そこから徐々に始まったのです。
2012年1月、大網に店を構えました。以降3年弱、私が今まで生きてきた中で最も苦楽を味わい最も大きな賭けをしている真っ只中にあります。
またひとつのことをこんなに長く続けたことがありません。
飽き性で、同じことをずっとやり続けることができないのですが、ギャラリーの仕事は毎日著しい変化に富んでいることが自分でおもしろいのだと思います。

私はビジネスセンスに乏しく店は経営難ではありますが、“ヒト”という財産という意味ではかなりの富豪だと思います。
多くの方々に力強く支えられ、今の私とgallery tenがあるのだと感謝の気持ちでいっぱいです。
ようやく10年、さて、これからどのような展開が待っているのか不安も期待もあります。でも、一度きりの人生は楽しまなければ損。特に何の気負いもありません。
ここで改めて・・・。 お客様、作家さん方、お世話になっている方々、スタッフたち、友人たち、家族へ。
ありがとうございます。 そして今後もどうぞよろしくお願いいたします。




コラム vol.71 "日本一忙しい陶芸家・内田鋼一さん" "gallery ten 10周年を迎えて・・・"