ボス・須田栄一さんと婿・コーラムさんの関係
gallery ten では3回めの企画展、須田帆布。
須田栄一さんのことはもうすでによくわかっている気がして、
今回取材に行ったときも、特に何かを尋ねる必要もないほどでした。
また、回を重ねる毎に、須田帆布のバッグのファンの多さに驚きます。
一度このバッグをもってみると、着け心地、使い勝手の良さを実感し、またほしくなる。そして使い込む。
工房には、週に一個くらいの割合で、使い込んでボロボロになった須田バッグの修理の依頼がくる。
修理には相当の手がかかるが、ここまで使ってもらえる幸せを感じるとおっしゃいます。
須田さんがバッグを作るようになってから早30年。
この間、作るのが嫌になったことは一度もないそうです。
今までに作ってきたバッグは500型を超える。
ヒマがあったらミシンの前でバッグが作りたい、試作サンプルを作っている時が一番楽しいのだとか。
世間一般では引退の年齢の須田さんですが、作りたいという意欲が今もなお泉のように湧いてくる。
「あと何年この仕事ができるかわからない。
今、第二のパワー”で懸命に納得のいく自分しかできないバッグを作るんだ!」と熱いコメント。
カナダ留学していたときに出会った靴職人のコーラムさん。
結婚後、つくばに移住し、彼は須田帆布のスタッフとなりました。
几帳面で真摯なものづくりをめざすコーラムさんと、少々雑でも感性で突き進むものづくりを長年やってきた義父・栄一さん。
二人の個性がぶつかり合います。ほぼ英語しか話せないコーラムさんと、ほぼ日本語しか話せない栄一さん。
お互い遠慮なく自分の意見を主張し、喧嘩になることもあるが、よりよいバッグづくりのため。
みな、同じ方を向いているからこそ、きもちよくわかりあえる局面が必ず訪れる。
最近ではコーラムさんデザインの新作もたくさん生まれてくるようになりました。
仕事の虫”・栄一さん、オフの日は、日がな一日、庭いじりやウクレレを楽しむ。
いつもご家族やご友人たちに囲まれて楽しそうだ。
ワンマンなお顔が見え隠れするが、それも須田さんのボスらしき姿。
多くの人たちから愛される幸せいっぱいの栄一さんなのです。
笹本雅行さんと竹内陽子さんの感性
笹本雅行さんと竹内陽子さんご夫婦のユニット名がLIVINGSTONE”。
お二人ともとてもよい雰囲気をお持ちで、初対面の時から品のよさと感度のよさが感じられます。
またお互いを尊重しながらも、それぞれの作家としての独自のスタンスを守っておられます。
雅行さんは、宝物の探検をしたい、考古学者になりたいと幼少時代を過ごしました。
美大で油絵を専攻し、卒業後会社員となり建築にまつわるデザインの仕事をする。
当時はバブルで次々とくる仕事に毎日忙殺されており、何か違和感を覚えていました。
いずれはものづくりをしたいと考えていたし、好景気も手伝って、思い切って会社を辞め、
やきものの地である笠間に移り住み、窯業学校に通い始めました。
陽子さんは、幼いころから絵を描くのが好きで、短大美術科に進学。
卒業後、9年会社員をし、30歳を前に、何か好きなことをしてみようと思い切って退職。
“アルプスの少女ハイジ”にあこがれ、とにかく半年間のつもりでドイツに渡る。
そこで出会った陶芸、あまりに楽しく、結局そのまま5年間ドイツで暮らしました。
帰国し、何か陶芸で身を立てようと笠間のやきものの会社に入る。
そこで雅行さんと出会ったのです。
雅行さんの知的で物語性のある世界観を表現する陶のオブジェや銅版画。
石のようなテクスチャーと、太古の西洋遺跡を彷彿とさせる造形には、心をとらえられます。
かたや、陽子さんの鮮やかな色彩とポップな絵付けの器には、心を踊らされます。
シンプルで渋い器もよいが、色を楽しむ器が食卓にあると元気が出るのがよいのではないかと陽子さん。
たしかに、カフェで陽子さんのマグカップでコーヒーを出すと、「わぁっ♪」という声が聞こえてきます。
彼女を見ていると、作品だけでなく、身に着けている服やバッグやアクセサリなど、全てが陽子さんを象徴するスタイル。
柔軟で豊かな感性によって、ご自分の作品の立ち位置を一点ではなく、俯瞰して観ておられることを感じます。
今回は、雅行さんの陶のオブジェと銅版画、陽子さんの陶の器や花器と銅版画を展開します。
日常の暮らしの中では、器だけでなく、オブジェや絵も大切なアイテムです。
ギャラリースペースが大きなリビングダイニングルームという感覚でお二人の作品をお楽しみください。
コラム vol.73 "ボス・須田栄一さんと婿・コーラムさんの関係" "笹本雅行さんと竹内陽子さんの感性"