横尾光子さんの服とおもしろい経歴
横尾さんと話をしていると、いつも人にオープンで、人生を楽しんでいるというイキイキとしたオーラを感じます。
そして、横尾さんの経歴はとてもおもしろい。
今まで20回以上の引っ越しを経験されたという、転勤族のお父さま、転勤族のご主人をおもちでした。
仕事の肩書きや趣味もたくさん。
大学卒業後、銀行に就職。
のちに転職したSONYでご主人と出会う。
結婚後、転勤先の北海道でスキー三昧。
当時のスカイラインが好きで日産ディーラーに転職。
ご主人、日本酒好きが高じて脱サラし、おいしい日本酒の飲める割烹を始める。
光子さん、会社をやめ、店の手伝いにいそしむ。
ボサノバのギターを習い、弾き語りを楽しむ。が、ある日、骨折しギターをやめる。
カフェ“お茶とお菓子 横尾”を始める。
今ではとても有名なカフェで、芸能人のPVやCM撮影に使われるような素敵な雰囲気。
大好きなコムデギャルソンの服も、年齢とともに体型が崩れ、きれいに着こなせなくなるものが出てくるため、
それなら自分が着たいもので体型を気にせずテイストのよい服を作ってしまえ!
・・・・・と、5年前、服のブランド“chloro”を立ち上げられたのです。
そして、現在の仕事で多忙な毎日をおくられています。
今度はボサノバの歌手でもやって癒されようと目論んでしたたかな笑みを浮かべていらっしゃいました。
chloroの服は、モノトーンで、デザインはいろんな着回しができシンプル、
横尾さんが年配者のために作られた服ながら、若い女性のファンも多い。
ずっとコムデギャルソンのショップに通いつめ、独創的なモードを追い続けておられるだけのことはあります。
ダメだ。昔の服への浪費癖が戻ってきそうで怖いです。
岡田直人さんの白い器
石川県小松市で作陶される岡田直人さん。
愛媛県出身の岡田さんは、優しい関西弁で丁寧に話す人です。
彼の器は、温かでトロリとした白の凛とした清潔感と、プレーンだが洗練されたフォルムが特徴。
たとえば皿のリムの幅と厚み、ポットなら丸みの具合、・・・といった、器としてのプロポーションがとても心地よい。
古き良き時代のオランダのデルフトがお好きで、その雰囲気と現代が交錯しているような器。
料理研究家、コーディネーター、スタイリストなどからも絶大な人気のある岡田さんの器。
どんな料理も受け入れるだけでなく、引き立たせ、テーブル周りの空気が変わるような力をもつからでしょう。
小松のアトリエには何度かお邪魔しましたが、無駄のないすっきりしたリビングにいると、
岡田さんの精神性というか、器づくりに対する姿勢が表れている気がします。
スタイリッシュなのに、頑丈でもある。
実は、いくつか岡田さんの器をたまに食洗機にかけています。(おおっぴらには言えませんが・・・)
びくともしません。信頼がおける彼の器にはワケがある。
“半磁器”という土と磁土の中間の生地で、強度があります。
また、釉薬として透明釉をメインに錫を加えて白く発色させることにより、さらに強度が増します。
その上、焼成温度を磁器に適した高めの温度にすることも強度アップの要因となります。
岡田さんの食卓にあがる気持ちの良い食器への心意気が伺われるものづくりに脱帽です。
久世礼さんのシュールな世界
わがgallery tenの常設展示作家でカフェのスタッフ(現在産休中)でもある久世礼さん。
礼さんは、女子美術大学で工芸を学び、その後、金沢卯辰山で陶芸をさらに学びました。
特に陶芸の絵付けに重点を置いて作品を作っていましたが、
ご主人の智也さんが木工作家として独立し、彼の仕事を手伝うべく、時間と労力を要する陶芸を休止しました。
いつでも気軽に手を動かせる針仕事を始めました。
昔から絵を描いたりするのが好きだった礼さんは、刺繍作品を作ることに没頭しました。
刺繍に関しては専門知識がないけれど、自分の好きな絵の世界を糸で表現することが楽しくてたまりません。
なによりシュールなキャラクターがおもしろいシチュエーションで登場するという想像力の豊かさがナイス。
どこからそんな発想がくるのか不思議。
でもカフェで1年間、密に礼さんのことをみてきて、幼児のような素直さと純粋さを再発見したのです。
そして、とても世話好きで、とにかくよく働く。何事にも一生懸命だ。
きっと周囲の多くの人からの愛情たっぷりにそだってきたのでしょう。
その内包された湯たんぽのようなホンワカとしたものから出てくる作品だからこそ、
ちょっとイジワルなキャラクターや、すましたキャラクターも、愛すべきキュートな存在になるのだと思います。
3月に赤ちゃんを出産し、その後、なにか新しい感情が芽生え、
作品に変化が出るのか、それとも出ないのか、とても楽しみです。
コラム vol.51 "横尾光子さんの服とおもしろい経歴" "岡田直人さんの白い器" "久世礼さんのシュールな世界"