関昌生さんの作品の力
福岡県うきは市は県の南の方に位置します。低い山々に囲まれてのどかな風景。
その土地で、“四月の魚”というお店を営む関昌生さん。
昭和初期の歯科医院だった建物で、古道具を中心に現代作家の作品も扱う老舗の有名店です。
数年前に店番をしながら、なんとなくたくさんあったワイヤーをペンチで曲げたりつなげたりしてカタチにして楽しんでいたところ、
それらがある人の眼にとまり、都内で展覧会を開いたのをきっかけに、今では作家活動の方が忙しくなり、全国各地で発表されています。
関さんの作品の展覧会は4年ぶりですが、次々と新しい作品が生まれています。
設計図も何もなく、ただただ手を動かして思い思いの形を作っていくそうですが、
それにしても、幾何学的なものもあれば、人や動物などをモチーフにしたものもあり、関さんの感性の豊かさが表れています。
関さんは、ご自分のことを不器用だとおっしゃるのですが、あの几帳面な仕事を見ているととてもそんなふうには思えません。
仮に、どんなに器用でどんなに高い技術をもってしても、
感度の高さがなければつまらないものになってしまいます。
関作品のどれもが、アートであり洗練された実用品に近いオブジェなのです。
“実用品に近い”と思うのは、美しくキリリとしたオブジェでありながら、ワイヤーという身近な素材でできていて、
いつでもどこでも部屋の壁や天井や棚の上などに飾って、暮らしの空間の一部となり楽しめる。
その空気の中に必要なアイテムになっていくのだと感じるからです。
最近では、木で何かを作ったり、またもや何か新しい作品が続々と生まれているようです。
やはりどれを見ても、関さんらしいセンスと温かさがそこにあります。
いつお会いしてもシャイで腰が低く、優しい笑顔の関さん。
初めてワイヤーを使って何かを作り始めたころは楽しくて仕方がなかったが、すぐに作家としてどんどんモノを作らなければならなくなり、
辛くなることもあるとおっしゃいます。
それでも、作っているところを見せていただくと、どこからどう見ても生き生きと楽しそう。
一本のワイヤーの線が、関さんの手によって、面や立体になっていく。
その軽くて細い線の集合体が、置かれた場の雰囲気を作るのだから、関さんの作品はおもしろいのです。
新しい竹作品を生む西本有さん
日本での伝統工芸のひとつである竹編みの名産地、大分県別府市に西本有さんを訪ねました。
別府と言えば温泉。 私の親くらいの世代の新婚旅行のメッカでした。
今回、別府には初めて足を踏み入れたのですが、少し前までは私にとってほとんど関心のない街でした。
昨年春ごろ、ネットでいろいろ見ていたときに 「!」と琴線に触れたものがありました。
それが、西本さんの竹で編んだバッグでした。
伝統的な編み技法を踏襲しながらも、革と組み合わせたり、モダンな意匠を取り入れたりと、西本さんの竹の作品におもしろさを感じました。
以前から竹で編んだカゴや箱などを素敵だなと思って使っていましたが、
急に竹の作品がどんなふうに作られているのかと好奇心がムクムクと湧き上がってきたのです。
1年前に西本さんと福岡でお会いし少し話をし、今回、打ち合わせとは言え初の別府行きをとても楽しみにしていたのです。
西本さんは千葉の出身。
千葉大学を卒業後、会社員となり、転勤族として、あちこちに勤務していた中で、
福岡に転勤で数年を過ごしていた時、福岡が性に合っていたのかとても気分のよい日常だったとのこと。
このまま福岡にずっと住みたいと思うほど気にいっていたのもつかの間、また転勤と昇進の話が西本さんに浮上。
前々からものづくりにも興味があったし、福岡にいて何か好きなことをして生きて行こうと一大決心。
思い切って会社を辞め、別府にあった竹工芸の訓練校に入りました。
基本的な技術を学ぶにはよい学校ではありますが、結局は独立してからどのような作品を作りどのように展開していくかが肝心。
西本さん独自の感性により作られた今までになかった竹のバッグや雑貨が、よりカジュアルで親近感が持てる作品となり、
発表や活躍の場を広げておられます。
また、相撲部屋から行李の依頼が来たり、クルーズトレイン“ななつ星in九州”からくずかごの依頼が来たり、ますます仕事のネットワークが密に。
今会期では、西本さんが竹を編む工程を動画でご紹介します。
ひとつの作品ができあがるまでの地道で丁寧な仕事の積み重ねの作業が手に取るようによくわかります。
また、在廊日には、竹を編むところをデモンストレーションで見せていただく予定です。
ぜひご高覧ください。
コラム vol.65 "関昌生さんの作品の力" "新しい竹作品を生む西本有さん"